【前提】春は遭難事故が多数発生するシーズンです
平野部からは梅や桜の便りが届き始め、いよいよ本格的な春山シーズンとなりました。極寒の冬山に比べると快適な登山シーズンとなりますが、心の緩みや油断により山岳遭難の危険が高まる季節であります。標高2000m以上の高山においては、5月上旬まで本格的な冬山装備が必要となります(※地域・山域やその年の気候によって状況は異なります)。標高1000m程度の里山においても、天候が急変する場合も少なくありません。
みなさんの常識は登山の非常識である場合が多数あります。長距離を走れる体力、速く登れる体力があるから安全という認識は間違いです。スカイランナーの皆さんの中には、山に登り始めてまだ数年という人が多いでしょうが、慣れてきた頃が一番危ないです。ぜひ「登山者」としてのマインドをもって山に入りましょう。そして、以下の注意点をよく読んで安全に楽しいスカイランニング(=ランニングスタイルの登山)をしていただければと思います。
【行動時間】午前中の行動が常識。最悪15:00までに下山
「午前中の行動」が常識です。日照時間が延びる時期ですが、春山では急激な気温・天候の変化が生じることが少なくありません。午後の気温低下も激しく、朝はポカポカ陽気だったのに、いつの間にか冬山に逆戻りという場合もあります。東日本では4月下旬では18:30ごろに日没の時刻を迎えることになります。出かける際には必ず日没の時刻を確認しましょう。山行が夕方まで伸びるような場合は、計画を変更することをお奨めします。午前中や正午は温かくても15:00を過ぎると急激に気温が低下しリスクが一気に高まります。朝早ければ早いほど余裕を持って行動ができます。登山では日の出前の出発は当たり前です。ヘッドライトは必携装備ですが、「日の出前に使うもの」という認識をもってください。夕方以降に使うという認識でいると危険に遭う可能性が高まることになります。
【春山の危険】特に多いのは道迷い・滑落・転倒、登山者同士の配慮も必要
△:積雪のない里山(標高1000m未満に限る)
・登山者(ハイカー)が増えるシーズンとなります。声の掛け合い、登山道の譲り合い、等の配慮が必要となります。すれ違いの多い登山道では走行は控えるようにしましょう。
・融雪後の登山道は、不明瞭で道迷いが発生しやすいです。また、地面が緩んでいることで崩れやすく、滑落や転倒、落石事故が多くなる傾向があります。傾斜のある場所では十分に注意しましょう。
・天候の急変により気温が低下する場合があります。十分な装備をもって山に入りましょう。
▲:積雪のある山岳・標高1000m以上の山岳
・雪上の歩行・走行には最適なシーズンですが滑落が発生するリスクが高いです。気温が低下した後にはアイスバーンになっていますので、アイゼンが必要となります。また、凍った表面を踏み抜いてしまい、大怪我をする場合も少なくありません。雪上での移動は慎重に行動するようにしましょう。
・積雪量の多い豪雪地帯では全層雪崩が発生することもあります。偶発的な雪崩が少なくありません。一人で入るのではなく、十分に登山経験のある人や、この時期のフィールドの状況を熟知している地元のガイド等と同行するようにしましょう。
・天候の急変により、一気に冬山に逆戻りする場合が少なくありません。冬山と同様に登山道が不明瞭です。霧に巻かれる道迷いが発生しやすい時期であります。冬山と同様の心構えと装備を持ちましょう。
【登山の前に】
・事前に現地の最新状況をインターネットなどで調査をしてください。
・家族や知り合いにスケジュールを知らせ、登山届け(登山計画書)を提出してください。
・地図でルート(エスケープルート・地名・山小屋・水場など)を確認してください。
・ルートの距離・標高差・累積標高差を確認して何時間かかるか想定をしてください。
・想定に応じて、持ち物やタイムスケジュールを決めてください。
・自分で考えられない場合や少しでも不安がある場合は山に行かないでください。
※初心者は経験豊富で信用できるガイドに導いてもらうべきです。
・天候が悪い場合や天候が下り坂の場合は絶対に山に行かないでください。
・「もしもの場合」のために(家族の負担を防ぐためにも)山岳保険への加入をお奨めします。「モンベル」「JRO」「日本山岳協会」等が年間契約タイプの山岳保険を取り扱っています。
【基本装備】
以下の3点【3種の神器】はどんな場合でも必ず持っていてください。
①ジャケット(薄手1枚+厚手1枚以上=合計2枚以上):春山では低体温で死に至るリスクが高まります。
②携帯電話:何かあったときの通信手段です。
③水&食料:非常食としてジェル等のコンパクトな食糧を携行してください。
その他に以下のものの携行をおススメします。
・地図 ・エマージェンシーシートやツェルト ・現金 ・ヘッドライト ・帽子や手袋
△:積雪のない里山(標高1000m未満に限る)
10度以下の低温にも耐えられる装備が必携です。行動中は汗をかきすぎないようにこまめに衣服を調節するとよいでしょう。
・手袋 ・シューズ ・靴下 ・速乾性下着(着替え用Tシャツ) ・帽子(耳も隠れるもの) ・防寒ジャケット(薄手1枚+厚手1枚以上=合計2枚以上) ・アウターズボン ・ネックウォーマー ・サングラス ・軽アイゼン ・地図やコンパス類 ・時計 ・エマージェンシーシートやツェルト ・現金 ・ヘッドライト ・水&食料
▲:積雪のある山岳・標高1000m以上の山岳
氷点下の低温にも耐えられる装備が必携です。里山でのランニング登山の必携品に加えて、着替え、アイゼン・ワカン(スノーシュー)・ピッケル・スキー・ストックなどの道具類。行動時間が延びる場合は冬用テント・冬用シュラフ・中間着・ガスコンロ類・ラジオ(天気予報を聞くため)などの生活必需品、ビーコン・プローブ(探り棒)・スノースコップ・エアバッグなどの雪崩対策用装備など、目的に合わせてさまざまなバリエーションの装備が必要になります。経験のあるガイドや登山装備店で点検してもらいましょう。
【万が一のとき】※春の遭難も死に直結する確率が高いです!!
①落雷・突風
移動性の低気圧による落雷や断続的な突風が起こる季節でもあります。尾根や山頂が危険地帯です。岩陰に隠れて身体を伏せてください。とにかく低い姿勢で伏せることが生き延びる可能性を高くします。
②落石・雪崩
場所としては谷間や壁のような斜面を移動する際に危険が高まります。融雪時の全層雪崩や落石が特に危険です。音に注意するために行動中のラジオや音楽は消してください。深い積雪のある場所では雪崩や落石の音が聞こえずらいこともあるので、危険が起こりやすい場所を判断できる力が必要です。視界の良い場所では目視をしてカニのように横移動をして直撃を避けます。視界が悪い場所や急峻な場所では岩陰に身を隠して直撃を避けます。避けられない雪崩に巻き込まれる場合はジャケットなどでエアポケットをつくって呼吸ができるようにしましょう(エアバッグも販売されています)。また足元の石や岩を落とすなどの落石を起こさないこと、スキーで急斜面で滑走した際に雪崩を起こさないこともとても大事です。
③低体温
総じて低体温のリスクにさらされているという認識をもってください。標高が1000m上がると6度気温が下がります。日本海側や太平洋側の低山など湿度が高く湿った雪が降る場所では、湿度の低い高地よりも衣服が濡れやすく、それが凍って凍傷にかかってしまう場合もあります。天候の悪い日は絶対に行動しないでください。
④滑落
積雪の深い山の尾根では、雪庇(せっぴ)の上に乗り上げて滑落する危険があります。切り立った山岳を行く場合は地面の上を進むように細心の注意をしてください。低山でも積雪・凍結、融雪による地面の緩みがありますので、アイゼンや滑り止めを携行するなど滑落に十分注意してください。また写真を撮るために後ずさりする行動は非常に危険です。
⑤道迷い
吹雪や濃霧時に危険が高まります。また、積雪時や融雪後は登山道が分かりずらくなります。ルートを見失ったらまずは引き返してください。積雪の無い山でルートが見つからない場合は尾根や山頂を目指してください。積雪がある場合は足跡を引き返すとよいです。谷間の方向に下ることは自殺行為です。吹雪や濃霧時はむやみに動き回らないほうが得策です。体力的に疲れている場合は、その場にとどまって救助隊を呼びましょう。ビバークする場合は、雪洞を掘るなどして風の当たらない場所に隠れてツエルトやシュラフ等に包まって寒さを凌いでください。