【前提】※冬山はスカイランニングに適しません
平野部でも各地から初雪の便りが届き始め、いよいよ本格的な冬山シーズンとなりました。標高2000m以上の高山における冬山シーズンは11月中旬~5月上旬の約半年間(※地域・山域やその年の気候によって状況は異なります)、標高1000m程度の里山においても、12月~2月の間は冬山装備を必要とします。積雪約20センチ以上でランニングシューズでの登山では実施不可能となります。冬山は軽装のスカイランニングに適しません。スノーシュー・スキー・重装備の冬山登山の季節として、スカイランニング以外の山岳スポーツを楽しむ時期として捉えることが重要です。
美しい冬山にはスカイランナーであれば誰しも憧れを抱きます。しかし、冬山のリスクの高さは他の季節の比ではありません。雪崩・低体温などで簡単に人命を奪ってしまいます。管理されたスキー場でない限り、知識も経験も無い素人が気軽に立ち入ることは自殺行為となります。管理の行き届かない登山道等に立ち入れるのは、十分な判断力・知識・装備を備えた経験豊富な者だけです。初心者は必ず経験豊富で信頼のできるガイドを付けてください。冬山に出かけるつもりの方は、以下の注意点を必ず読んでください。
【行動時間】
「午前中の行動」が常識です。東日本では12月下旬では16:30ごろに日没の時刻を迎えることになります。出かける際には必ず日没の時刻を確認しましょう。山行が午後まで伸びるような場合は、計画を変更することをお奨めします。午前中や正午は温かくても14:00を過ぎると急激に気温が低下し、低体温症のリスクが一気に高まります。朝早ければ早いほど余裕を持って行動ができます。登山では日の出前の出発は当たり前です。ヘッドライトは必携装備ですが、「日の出前に使うもの」という認識をもってください。夕方以降に使うという認識でいると危険に遭う可能性が高まることになります。また気温が低いとヘッドライトのバッテリーの寿命が短くなります。使用する時間が長くなりそうであれば予備のバッテリーを用意するなどの対策をとりましょう。
△:積雪の少ない里山におけるランニング登山(標高1000m未満に限る)
太平洋側の標高1000m未満の里山だと積雪が無い場所もあり、気候は秋の高山とさほど変わりません。しかし、山麓より積雪の状況を判断することは難しいです。積雪・凍結の恐れがあるので、細心の注意や技術を磨くことを怠らず、必要に応じて軽アイゼンやスパイクシューズを用意してください。積雪が20センチを超えるような場所は走行が不可能ですので、ランニングシューズでは立ち入らないでください。時刻としては14:00がタイムリミットとなります。それ以降の行動は自殺行為となります。日帰り登山であれば10:00までには山頂に到達できるようなスケジュールで行動しましょう。
▲:積雪の多い山岳における登山や山岳スキー
ベテランの領域です。十分な装備を持っていることが前提です。「計画通りに進まないことが当たり前」という心構えが大事です。積雪が深い場所では行動の時間を読むことは難しいです。常に物事を冷静に判断して、目的地を変更したり、引き返したりしましょう。冷たい季節風が直接当たる高山では天候が急変する可能性も高いです。天気予報だけではなく、山にかかる雲の形も行動の判断材料とするとよいでしょう。
【登山の前に】
・事前に現地の最新状況をインターネットなどで調査をしてください。
・家族や知り合いにスケジュールを知らせ、登山届け(登山計画書)を提出してください。
・地図でルート(エスケープルート・地名・山小屋・水場など)を確認してください。
・ルートの距離・標高差・累積標高差を確認して何時間かかるか想定をしてください。
・想定に応じて、持ち物やタイムスケジュールを決めてください。
・自分で考えられない場合や少しでも不安がある場合は山に行かないでください。
※初心者は経験豊富で信用できるガイドに導いてもらうべきです。
・天候が悪い場合や天候が下り坂の場合は絶対に山に行かないでください。
・「もしもの場合」のために(家族の負担を防ぐためにも)山岳保険への加入をお奨めします。
※「モンベル」「JRO」「日本山岳協会」等が年間契約タイプの山岳保険を取り扱っています。
【基本装備】
以下の3点【3種の神器】は季節を問わずどんな場合でも山に入る場合は必ず持っていてください。
①ジャケット(防寒着)、②携帯電話、③水&食料
△:積雪の少ない里山におけるランニング登山(標高1000m未満に限る)
氷点下の低温にも耐えられる装備が必携です。濡れると凍って凍傷の原因になりますので、行動中は汗をかきすぎないようにこまめに衣服を調節するとよいでしょう。また、濡れてしまったときのための替えの靴下・手袋・下着類があるとよいでしょう。
・手袋(インナー&アウター&替え)
・冬用シューズ
・冬用スパッツ(積雪のある場所で)
・靴下(厚手のもの、替えも必携)
・速乾性下着(着替え用Tシャツ)
・帽子(耳も隠れるもの)
・防寒ジャケット(薄手1枚+厚手1枚以上=合計2枚以上)
・アウターズボン
・ネックウォーマー
・サングラス
・軽アイゼン
・地図やコンパス類
・時計
・エマージェンシーシートやツェルト
・現金
・ヘッドライト
・水&食料(飲料は凍結防止のためにテルモスへ入れるとよいでしょう)
▲:積雪の多い山岳における登山や山岳スキー
最低でもマイナス20度の低温にも耐えられる装備が必携です。里山でのランニング登山の必携品に加えて、アイゼン・ワカン(スノーシュー)・ピッケル・スキー・ストックなどの道具類、冬用テント・冬用シュラフ・中間着・ガスコンロ類・ラジオ(天気予報を聞くため)などの生活必需品、ビーコン・プローブ(探り棒)・スノースコップ・エアバッグなどの雪崩対策用装備など、目的に合わせてさまざまなバリエーションの装備が必要になります。経験のあるガイドや登山装備店で点検してもらいましょう。
【万が一のとき】※冬の遭難は死に直結する確率が高いです!!
①落雷・突風
北からの冷たい季節風により落雷や断続的な突風が起こりやすい季節でもあります。尾根や山頂が危険地帯です。岩陰に隠れて身体を伏せてください。とにかく低い姿勢で伏せることが生き延びる可能性を高くします。
②落石・雪崩
場所としては谷間や壁のような斜面を移動する際に危険が高まります。表面の新雪が崩れる表層雪崩、融雪時の全層雪崩や落石が特に危険です。音に注意するために行動中のラジオや音楽は消してください。深い積雪のある場所では雪崩や落石の音が聞こえないこともあるので、危険が起こりやすい場所を判断できる力が必要です。視界の良い場所では目視をしてカニのように横移動をして直撃を避けます。視界が悪い場所や急峻な場所では岩陰に身を隠して直撃を避けます。避けられない雪崩に巻き込まれる場合はジャケットなどでエアポケットをつくって呼吸ができるようにしましょう(エアバッグも販売されています)。また足元の石や岩を落とすなどの落石を起こさないこと、スキーで急斜面で滑走した際に表層雪崩を起こさないこともとても大事です。
③低体温
総じて低体温のリスクにさらされているという認識をもってください。標高が1000m上がると6度気温が下がります。日本海側や太平洋側の低山など湿度が高く湿った雪が降る場所では、湿度の低い高地よりも衣服が濡れやすく、それが凍って凍傷にかかってしまう場合もあります。天候の悪い日は絶対に行動しないでください。
④滑落
積雪の深い山の尾根では、雪庇(せっぴ)の上に乗り上げて滑落する危険があります。切り立った山岳を行く場合は地面の上を進むように細心の注意をしてください。低山でも積雪・凍結がありますので、アイゼンや滑り止めを携行するなど凍結箇所での滑落に十分注意してください。また写真を撮るために後ずさりする行動は非常に危険です。
⑤道迷い
吹雪や濃霧時に危険が高まります。また、積雪時には登山道が分かりづらくなります。ルートを見失ったらまずは引き返してください。積雪の無い山でルートが見つからない場合は尾根や山頂を目指してください。積雪がある場合は足跡を引き返すとよいです。谷間の方向に下ることは自殺行為です。吹雪や濃霧時はむやみに動き回らないほうが得策です。体力的に疲れている場合は、その場にとどまって救助隊を呼びましょう。ビバークする場合は、雪洞を掘るなどして風の当たらない場所に隠れてツエルトやシュラフ等に包まって寒さを凌いでください。