【前提】 夏とは異なるリスクも高まる、秋の山
標高2000mの高山では紅葉が進み本格的な秋山シーズンとなりました。高山が舞台となるスカイランニングにおける秋山シーズンは9月中旬~11月上旬の約2ヶ月程の間(積雪前)とお考えください。夏山では煩わしかった虫も少なくなり、空気も澄み渡ってきます。標高の高い山では新雪パウダースノーの雪上スカイランニングを体験できます。まさに爽快なスカイランニングを心ゆくまで楽しめるシーズンだといえるでしょう。夏に比べると雷雨等のリスクが低くなりますが、秋も別のリスクでの山岳遭難が起こりやすい季節になります。長時間・長距離を進む体力があるから安全という認識は間違いです。登山ブームやランニングブームにより山に入り始めてまだ数年という人が多いでしょうが、慣れてきた頃が一番危険です。今年の夏山でも遭難のニュースを多く耳にしました。遭難を他人事と考えず、ぜひ以下の注意点をよく読んで安全に楽しい秋のスカイランニング(=ランニングスタイルの登山)をしていただければと思います。
【行動時間】秋の日は「つるべ落とし」
夏山と同じように「午前中の行動」が常識です。秋の日は「つるべ落とし」と呼ばれるように日没の時間が急激に早まってきます。東日本では10月上旬では17:30ごろ、12月上旬では16:30ごろに日没の時刻を迎えることになります。山行が午後まで伸びる場合は必ず日没の時刻を確認しましょう。そして、日没前2時間までに下山できない場合はヘッドライトを必ず携帯するようにしましょう。また、標高の高い山では午前中や正午は温かくても14:00を過ぎると急激に気温が低下してきます。夏山に比べると低体温症のリスクが高まります。軽装の場合、標高2000m以上では14:00がタイムリミットです。それ以降の行動は自殺行為となります。日帰り登山であれば10:00までには山頂に到達できるようなスケジュールで行動しましょう。
朝早ければ早いほど余裕を持って行動ができます。登山では日の出前の出発は当たり前です。ヘッドライトは「日の出前に使うもの」という認識をもってください。夕方以降に使うという認識でいると危険に遭う可能性が高まることになります。
【登山の前に】スカイランナーは登山者の一員です
・事前に現地の最新状況をインターネットなどで調査をしてください。
・家族や知り合いにスケジュールを知らせ、登山届けを提出してください。
・地図でルート(エスケープルート・地名・山小屋・水場など)を確認してください。
・ルートの距離・標高差・累積標高差を確認して何時間かかるか想定をしてください。
・想定に応じて、持ち物やタイムスケジュールを決めてください。
・自分で考えられない場合や少しでも不安がある場合は山に行かないでください。
・天候が悪い場合や天候が下り坂の場合は山に行かないでください。
【装備】命を救う3種の神器
以下の3点【3種の神器】はどんな場合でも必ず持っていてください。
①ジャケット(薄手1枚+厚手1枚以上=合計2枚以上):秋山では低体温で死に至るリスクが高まります
②携帯電話:何かあったときの通信手段です。
③水&食料:非常食としてジェル等のコンパクトな食糧を携行してください。
●その他に以下のものの携行を強くおススメします。
※ランニング用のサブザックに入る物品を挙げています
・ファーストエイドキット(テーピングテープ・包帯・三角巾・サムスプリント・ハサミなど)
・地図
・エマージェンシーシートやツェルト
・現金
・ヘッドライト
・帽子や手袋
【万が一のとき】さまざまな危険と隣り合わせ
①落雷・突風
台風や秋雨前線の活動が活発になる季節です。尾根や山頂が危険地帯です。岩陰に隠れて身体を伏せてください。とにかく低い姿勢で伏せることが生き延びる可能性を高くします。
②落石
谷間や横移動の際、特に雨後が危険です。音に注意するためにラジオや音楽は消してください。落石の音がしたら、視界の良い場所では目視をしてカニのように横移動をして直撃を避けます。視界が悪い場所や急峻な場所では岩陰に身を隠して直撃を避けます。また足元の石や岩を落とすなどの落石を起こさないこともとても大事です。
③低体温
標高の高い山は低い山と季節の進み方が全く違います。奥武蔵の山がまだ夏の雰囲気を残していても北アルプスはすでに冬山ということもあり得ます。標高3000mは下界よりも20度気温が低いです。標高2500mを超える山は既に冬山であり快適なスカイランニングに適していないという認識をもってください。標高1500m以上の山岳は天候が良ければ快適ですが、一度天候が崩れると冬山と同じ状況になってもおかしくありません。急な雨の後に急激に気温が下がることがあります。天候の悪い日は絶対に行動しないでください。
④滑落
紅葉のハイシーズンは登山者が込み合っており、登山道が狭くなっている場合があります。登山道を譲り合いましょう。標高の高い山では10月上旬より積雪・凍結がありますので、アイゼンや滑り止めを携行するなど凍結箇所での滑落に十分注意してください。また写真を撮るために後ずさりする行動は非常に危険です
⑤道迷い
濃霧時に危険が高まります。ルートを見失ったらまずは引き返してください。濃霧時はむやみに動き回らないほうが得策です。ルートが見つからない場合は尾根や山頂を目指してください。谷間の方向に下ることは自殺行為です。体力的に疲れている場合はその場にとどまって救助隊を呼びましょう。ビバークする場合は風の当たらない岩陰に隠れてエマージェンシート等に包まってください。
⑥その他
秋山では蜂や熊など動物の被害が頻発します。今年は全国的に高温だったせいか、蜂による被害のニュースをよく聞きます。蜂に遭遇した場合は、大騒ぎせずにその場から静かに立ち去りましょう。姿勢を低くしてゆっくり静かに立ち去るのが一番刺されにくいようです。また紅葉シーズンには多数の登山者が入るため盗難などの危険もあります。
【火山活動について】
今年の9月に活火山である浅間山の噴火警戒レベルが1に引き下げられ、前掛山が登山可能になりました。また、2014年9月下旬の噴火で多数の登山者が亡くなられた御嶽山も山頂までの登山が可能となりました。ただし、日本におけるスカイランニングのフィールドは活火山やその近辺である場合も少なくありません。そして登山であるスカイランニングは常にリスクと隣り合わせのスポーツです。しかし、火山は美しい景色や温泉などの恵みを我々にもたらしてくれるものでもあります。日本の活火山の分布や噴火警戒レベル等について各自で学習してみてはいかがでしょう。
【気象庁HP】 http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/vol_know.html